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コラム

A列車jp発「延伸計画の内情と延伸のその後について」

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日本各地で進む延伸計画。
しかし、その実現には多額の資金が必要です。
今回は、鉄道事業を支える法律の仕組みと、
計画を前進させるための施策について見ていきましょう。

1. 新線を建設するまでの手続き

 「A列車で行こう」では資金さえあれば簡単に線路を建設できますが、現実ではそうはいきません。以前、鉄道は構想から実現まで長い時間がかかると説明しましたが、その過程は大変な道のりです。鉄道整備はどのような手順で行われるのでしょうか。

 鉄道事業の根拠法である「鉄道事業法」は「鉄道事業を経営しようとする者は、国土交通大臣の許可を受けなければならない(第3条)」と定めています。この許可は事業者単位でなく、新設しようとする区間ごとに必要です。

 許可申請には事業基本計画、事業収支見積書、建設費概算所、資金収支見積書、線路予測図が必要です。線路予測図とは、起点・終点・主要経過地、駅の位置と名称などを記した平面図と、線路の高さ、トンネルや橋梁の位置や長さなどを記した縦断面図です。国交省はこれらをもとに、収支採算性、事業の継続性、安全確保などの観点から審査し、許可します。

 事業許可と並行して環境影響評価を行います。これは大規模な事業を行う場合、その事業の実施が環境に与える影響を予測・評価して公表し、住民や自治体の意見を反映する仕組みです。リニア中央新幹線をめぐるJR東海と静岡県の対立は環境影響評価から始まりました。それだけ重要な手続きです。

 また地下鉄のように道路下にトンネルを掘る場合は、国土交通省に加え、道路の所有者(国道なら国、都道なら都)に占用許可を得なければなりません。

 これら事前手続きが済んだら、土木構造物、レールや枕木、駅の構造、信号設備、電力供給などの詳細設計をまとめた工事施行認可申請書を提出し、工事の許可を受けます。

2. お金を集めなければ鉄道は作れない

 以上は工事に関する流れですが、もうひとつ大事なのは事業の前提となる資金調達です。鉄道建設には莫大な資金が必要です。特に都心では地下トンネルを採用せざるを得ず、事業費がかさむ要因になります。

 現在、整備中の路線を例に挙げると、なにわ筋線(大阪~JR難波・新今宮間)が約7.2kmで約3300億円(6000億円以上になる見通しとの報道もあります)、JR東日本羽田空港アクセス線(東山手・臨海部ルート)が12.4km(改良区間含む)で約3000億円、東京メトロ南北線(白金高輪~品川間)が約2.5kmで約1310億円、有楽町線(豊洲~住吉間)が4.8kmで約2690億円です。

 「A列車で行こう はじまる観光計画」(はじまるA列車)で平地(2020年)に5km(1マス50m)の線路を敷設してみます。すると地上は約6.4億円、高架(2F)は約30億円、地下(B1)は約39億円です。

 もちろん、ちょっと線路を建設しただけで1000億円もかかったらゲームは楽しくありません。それはそれとして重要なのは、現実の新線建設はゲームよりはるかに巨大な資金が必要だということです。

3. 会社は株主のもの

 資金調達の方法はさまざまですが、ひとつは「株式会社」という仕組みです。株主が資金を出し合った資本金で資産を取得し、事業で得た利益を分け合います。その歴史は古く、オランダで1602年に設立された東インド会社が起源と言われています。

 19世紀に入り、鉄道も同様の形態で建設が進みました。日本初の鉄道(新橋~横浜間)は政府が建設しましたが、全ての路線を整備する資金はありません。そこで初の民営鉄道事業者として「日本鉄道株式会社」が設立され、現在の高崎線や東北本線、山手線などを建設しました。

 ちなみに日本鉄道は高崎線上野~高崎間が開業した1883~1884年にかけて、営業利益率30%台を記録し、年率10%もの配当を行っています。当時の鉄道はある意味、ベンチャー企業であり、リスクに見合った配当を得ることができたのです。「はじまるA列車」でも自社は株式会社です。毎年配当金を支払わなければ株主信頼度が落ちてゲームオーバーになるのは、会社(資産)の持ち主である株主に利益を分配する義務があるからです。

 ただし資本金には限りがあります。事業を拡大するために新株を発行して、さらなる資本金を集めることを増資といいます。「はじまるA列車」でも株式公開後に新株発行が可能ですね。株主が拠出した資本金を自己資本といいます。これは返還する必要のない資金であり、経営の中心です。

 とはいえ鉄道黎明期ならともかく、現代の鉄道は自己資本だけでは建設できません。そこで借入金や社債の発行などで外部から資金を調達します。しかし、これらは利息を付けて返済しなければならない資金であり、返済する宛のないまま借金を積み重ねれば国鉄のように破綻してしまいます。つまり利息を払いつつ借金を返すだけの儲けがなければ経営は成り立ちません。

 

4. 都市鉄道を支える補助金

 鉄道経営はいばらの道です。数百億、数千億円もの費用をかけて鉄道を建設しても採算は取れません。それでは必要な新線建設がストップしてしまうため、政府や自治体が資金調達を支援したり、建設費の一部を負担したりする助成制度が用意されています。

 代表例は地下鉄です。地下高速鉄道整備事業費補助制度では、建設費から車両費などを除いた額に対し、国と地方がそれぞれ最大35%補助します。ただしこの制度の対象は、公営事業者(都営地下鉄や市営地下鉄)と東京メトロ、大阪メトロ、第3セクターに限られています。また地下区間のみ適用されるため、全ての新線建設に使えるわけではありません。

 このような背景から、新たに設けられた支援の仕組みが都市鉄道等利便増進法(利便増進法)です。相鉄・JR直通線、相鉄・東急新横浜線のために作られた法律と言われていますが、東急新空港線の整備でも同法の採用が決定し、さらなる広がりが期待されています。

5. 現代鉄道整備の切り札、上下分離方式

 利便増進法を解説する前に、「上下分離方式」を説明しなければなりません。ゲームでもそうであるように、鉄道は鉄道運行に必要な線路・施設(下部)と、列車の運行・営業(上部)の上下一体が原則です。

 しかし、建設するにも維持するにも、最もカネがかかるのが「下」であり、これを鉄道事業者から切り離せば収支は好転します。そこで自治体や第3セクターが「下」を保有し、鉄道事業者はこれを借りて「上」のみ行うのが「上下分離方式」です。新線を整備する場合は「下」を「整備主体」、「上」を「営業主体」と呼ぶこともあります。

 鉄道事業法上では、上下一体の一般的な鉄道を「第一種鉄道事業」、他人が所有する線路を使って運行するのが「第二種鉄道事業」、線路を敷設・所有して第二種鉄道事業に使用させるのが「第三種鉄道事業」です。

成田スカイアクセス線の関係(地理院地図で筆者が作成)

 第三種鉄道事業者の存在は一般利用者からは見えません。例えば京成スカイアクセス線は小室駅(通過駅)から先、千葉ニュータウン鉄道、成田高速鉄道アクセス、成田空港高速鉄道の3つの会社の線路を借りています。京成は第二種鉄道事業者として、3社に加えて京成高砂~小室間の施設を保有する北総鉄道に線路使用料を支払っているのです。

6. 画期的な利便増進法

 さて話を利便増進法に戻しましょう。同法にもとづく都市鉄道利便増進制度は上記の上下分離方式を発展させた仕組みです。既存路線を接続する新線や連絡線を建設する「速達性向上計画」、ターミナル駅の機能を向上させる「交通結節機能高度化計画」が対象です。

 最大の特徴は手厚い補助制度です。鉄道施設建設費に対し、国が3分の1、地方自治体(都県や市)が3分の1を補助するため、整備主体の負担は残り3分の1にとどまります。また保有資産に対する固定資産税などの減免措置もあります。

 借入金は営業主体が整備主体に支払う線路使用料で返済しますが、特徴的なのは線路使用料の決定方法です。一般的に借金は返済期限が決められており、それに基づいて返済額が決まります。ところが都市鉄道利便増進制度では、営業主体の線路使用料は「受益相当額」とされています。

 「受益」とは新線の整備が行われた場合と、整備が行われなかった場合の収支の差です。きわめて単純化すれば、儲けを全部差し出す条件で新線ができる「都合のいい制度」と言えます。

 相鉄・東急新横浜線(2026年度)は相鉄が年間16.77億円、東急が年間24.79億円を支払っています。整備主体である独立行政法人 鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)が事業費約4000億円の3分の1、約1300億円調達したので、約33年で借金を返せる計算です。

 とはいえ返済まで50年、100年かかるような路線は建設できません。制度の適用は費用より投資効果が大きいこと(費用対効果)が前提です。その上で30年以内に過去の赤字を全部取り戻してトータルで黒字になること(累積黒字転換)、整備主体の借り入れが3分の1以上償還できることが求められます。

7. 費用増に直面する埼玉高速鉄道延伸計画

 

 埼玉高速鉄道浦和美園~岩槻間延伸事業を例に、実際の動きを見てみましょう。この計画はまだ正式には決定していませんが、埼玉県とさいたま市は2026年3月31日に、営業主体の埼玉高速鉄道、整備主体の鉄道・運輸機構に対し事業化を要請しました。両者が要請を受諾すれば正式な申請に移ります。

 地下鉄7号線(東京メトロ南北線・埼玉高速鉄道)は元々、目黒~赤羽岩淵~浦和美園~岩槻~蓮田間の計画です。埼玉県とさいたま市は2001年の開業直後から延伸を検討してきましたが、採算性に課題があること、埼玉高速鉄道の経営が悪化したことから見送られてきました。

 経営再建後の2017年、さいたま市の「地下鉄7号線延伸協議会」は浦和美園~岩槻間の延伸を検証します。都市鉄道利便増進制度の採用を前提に、沿線開発と快速運転を行えば投資効果と採算性をクリアできる見込みとの結論が出たことで、事業化の検討が本格化しました。

 しかし2020年代に入ると状況が変わります。2018年の概算事業費は860億円でしたが、物価・人件費の高騰や人手不足の影響で、2024年1月には1.5倍の1300億円へ上方修正したのです。事業費が大幅に増加すれば、費用対効果と採算性の計算の前提が変わります。さいたま市は2023年度中に事業化を決定する意向でしたが、この結果を受けて見送りました。

8. カギを握るのは周辺開発と速達性

 事業を前に進めるには利用増で費用増を穴埋めするしかありません。今回の事業化要請と2024年想定で異なるのは、浦和美園~岩槻間に新設予定の「中間駅」の想定です。設置予定地のさいたま市岩槻区浮谷にはかつて、武州鉄道という私鉄の浮谷駅がありました。しかし武州鉄道は都心に到達しないまま1938年に廃止となり、駅周辺の開発は進みませんでした。

中間駅・浮谷駅の位置関係(地理院地図で筆者が作成)

 ここを新たな住宅地とすべく、広さ45~65ヘクタール、定住人口4千人程度の開発を計画していましたが、さらなる需要を創出するために、開発規模を最大120ヘクタール、1万人程度に拡大。つまり延伸計画の成否は中間駅の開発計画が握っているのです。

浮谷駅跡地・中間駅設置予定地の現状(筆者撮影)

 もうひとつは速達性です。埼玉高速鉄道の利用者数は1日約12万人、駅別の乗車人員は東川口駅の約1.8万人が最多です。一方、延伸先の東武野田線岩槻駅は約1.7万人で、うち約8000人が埼玉高速鉄道を利用すると見込まれています。

 岩槻から都心に向かう利用者は現在、大宮または春日部駅で乗り換えています。乗り換え不要の都心直通は優位点ですが、所要時間が長すぎては選ばれないため、主要駅のみ停車する快速列車を新設予定です。これらの需要を地道に積み重ねなければなりません。

 事業が許可された場合、1440億円は国、自治体、整備主体が480億円ずつ出し合うため、埼玉高速鉄道は線路使用料で480億円を返済します。同社の経常利益は約30億円ですが、延伸区間の利用者は利用距離が長く、加算運賃も負担します。仮に受益が5億円なら30年で150億円、5.5億円なら165億円、借入金の3分の1を償還できるかどうかは、わずかな差で決まります。

 時に大胆に見える新線計画も、実際のところは細かい針の穴を通すような手続きの連続です。今回は着工までの流れを見てきましたが、工事の苦労、開業準備の苦労、まだまだ難関は待ち構えています。「A列車で行こう」をプレイする際は、ゲームの裏側でそんなことが行われている、なんて想像すると面白いですね。

Nintendo Switch 2

 

掲載日:2026年6月12日

この記事の筆者

枝久保達也

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。現在は鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行なうかたわら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』で第47回交通図書賞歴史部門受賞。

提供:A列車で行こうポータルサイト「A列車jp」(https://www.atrain.jp/

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