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A列車で行こう ポータルサイト > 特別企画 > A列車jp発「続・こだわりマップの作り方:上田編 ①マップの設計」


「A列車で行こう はじまる観光計画」の「Nintendo Switch 2 Edition」が12月18日に発売されます。列車や自動車の設計図上限が増えたり、グラフィックの向上、マウス操作などシステム面のブラッシュアップが図られたりと、質の向上を中心としたアップデートのようです。今から楽しみです。
そんなバージョンアップを記念して「また新しい街を作ってくれないか」とアートディンクさんからリクエストがありました。筆者は昨年末、福井県福井市を走る福井鉄道、えちぜん鉄道の再現マップ(Switch版 シナリオコード「2RJWJPH」)を作成し、A列車jpにて「こだわりマップの作り方」として記事化しました。続いて個人的に、位置関係を重視した「福井鉄道再現マップ」(Switch版 シナリオコード「6B10VF9」)。作成し、これで引退かなと思っていたのですが、せっかくのご指名とあれば、やらないわけにはいきません。

今回は「こだわりマップの作り方」で紹介した基本的な考え方ふまえ、製作段階ごとに筆者が普段マップ作成にあたり用いているテクニック、こだわりを解説した全4回の記事になります。再現マップの魅力と奥深さを改めて感じていただければ幸いです。完成したマップはSwitch版シナリオコード「7TXP09X」です。
今回の舞台は長野県上田市の上田電鉄です。筆者は今年7月、長野県上田市を初めて訪れたのですが、SNSに「A列車のマップ化したい街並み」と書き込んだのがアートディンクさんにバレていたようです!
地方都市マップの面白みは表現の幅にあります。今作は1マスが50mなので、Lサイズマップ320マスで一辺16kmの換算ですが、一方で列車1両を1マスと考えると、1マス20m、320マスで6.4kmとも考えられます。そこで全体では50m換算、建物が密集する都市部では20m換算と縮尺を使い分けることで、マップに広がりを持たせつつ、細部の表現が可能になります。
鉄道運行面の魅力も多々あります。地方私鉄は1編成2~3両と短く、駅間を詰められるため、中小私鉄であれば全駅を詰め込むことが可能です。路線は大部分が単線区間で、交換できない駅も多いため、ダイヤを組む難易度が高いのもやりがいがあります。
上田電鉄はこの条件にピッタリです。まず「地理院地図」で上田付近を表示し、15km四方で切り取ってみましょう。上田駅を中心に置くと、別所温泉駅まで収まることが分かります。前述の通り新幹線は縦横一直線の制約があるので、このままではマップ化できないため、北陸新幹線が水平になるよう回転します。

ここで合わせて検討したいのが廃線です。地方私鉄は1960年代に多くの路線を廃止しており、上田電鉄もかつて、別所線の他に西丸子線(1963年廃止)、丸子線(1969年廃止)、真田傍陽線(1972年廃止)、さらに戦前に廃止された青木線の計4路線を有していました。上田マップでは廃止された全路線を再現してみたいと思います。
戦後の路線であれば廃線のルートは簡単に調べることができます。国土交通省の「鉄道時系列データ 国土数値情報」は1950年以降の鉄道路線図を1年ごとに地図データ化しており、産総研地質調査総合センター「地質図Navi」で地図と重ねて表示が可能です。
上田電鉄はかつて上田駅を中心に広大なネットワークを有していました。青木線は1938年に廃止されたため鉄道時系列データに含まれていませんが、国土地理院の「地図・空中写真閲覧サービス」で、1937年に測量された地図(5万地形図「坂城」)を見ると、国道143号線に沿って青木村役場手前まで走っていたことが分かります。厳密には道路上を走る路面電車でしたが、道路脇に敷設します。
鉄道時系列データに青木線を重ね合わせ、北陸新幹線を水平に回転したのが次の画像です。1辺15kmの四角形を16等分して配置すると、真田線と青木線の一部がはみでますが、概ねマップに収まりそうです。

続いて地形を確認しましょう。筆者が上田を訪れて「マップ化したい」と思ったのは、土地の起伏が街に個性を与えていると感じたからです。上田盆地は千曲川が侵食した河岸段丘が特徴で、いくつもの段丘崖が街を囲んでいます。シンボルの上田城も段丘の先端に位置しており、地形の高低差を活かした二の丸堀にはかつて、真田傍陽線が走っていました。

実を言うと筆者は再現マップを作る際、段差を好みません。ゲームの仕様上、なだらかな丘にならず、どうしても唐突感と違和感が出てしまうため、できる限り使用を避けていたのですが、上田のような地形ならむしろピッタリです。こうして上田マップは、千曲川と段丘を表現する、廃線を含めた全路線を再現する、の2つをテーマに作って行くことに決めました。
参考となるのが地理院地図の「陰影起伏図」と「傾斜量図」です。千曲川以北に2つの段丘、また神川を挟んで特徴的な段丘が存在しており、ここの再現がキーポイントになります。千曲川以南にも東山から伸びる丘がありますが、ここに段差を設けると施設の設置にさまざまな制約が出てしまうので、今回は無視したいと思います。

以前の記事でも書いた通り、再現マップは「完全再現」にこだわる必要はありません。線路や道路の配置、施設の大きさなど、ゲームの仕様上、妥協しなければならない場面があります。全ての要素を無理に入れ込むのではなく、マップのテーマに必要不可欠なのかを見極めて、設計図を作っていきましょう。
以上をふまえ、鉄道と起伏、川を仮置きしたのが次の右図です。緑で囲んだ数字は上田駅を基準とした高低差です。左図と比較してもいい感じになりました。

真田線、青木線はマップに収めるため、角度を変えてやや短縮しています。また北陸新幹線が東山を貫いて通過できるように、形状を右上に引き伸ばしています。その他、神川西岸は上田市街地、東岸は大屋地域、東御市ですが、マップの中心である上田市街地を再現するスペースを広く取るため、神川を東に寄せています。
マップ下部に多数ある水色の「●」はため池です。上田は稲作に最適な肥沃な土地を持ちながら、年間降雨量が900mmほどしかないため、戦国時代から江戸時代にかけて多くのため池が作られました。その数、140以上ですが、全部を入れたら建物を置く土地がなくなるので、存在感のある大きな池に絞って仮置きしました。再現マップは土地の歴史も学ぶことができるのです。
続いて道路と駅を配置して設計図を作り込みましょう。本作のキモとなる「観光地」は、旅客の動きを意識して選定します。上田マップでは、街のシンボルである「上田城(図5のA)」と「別所温泉(B)」は外せません。3つ目は真田傍陽線を利用してもらうため、上田市真田町にある「真田氏歴史館(C)」を選びました。
4つ目は悩んだ結果、上田市に隣接する青木村の「五島慶太未来創造館(D)」に決めました。ご存じの通り、五島慶太は東急グループを創設し、私鉄ビジネスモデルを確立した日本を代表する鉄道経営者です。五島は青木村の出身で、1920年まで鉄道省で私鉄行政を担当していました(生家は2018年まで残っていましたが、残念ながら落雷で焼失してしまいました)。

上田電鉄の前身のひとつである上田温泉軌道が青木線の敷設を申請し、特許されたのは1919年のこと。郷里に持ち上がった鉄道計画を五島は全面的に支援しました。五島は1959年に逝去しますが、その前年に上田電鉄(当時の名称は上田丸子電鉄)を買収し、東急グループに加えています。せっかく青木線を「復活」させたので、五島慶太に敬意を表して観光地に選定しました。
実際に作り始める前にマップのキモとなる要素を検証しておきましょう。今回は北陸新幹線と並走するしなの鉄道(旧信越本線)の表現について、事前に確認したいことがあります。
本作における新幹線、実は向き以外にも色々と厄介な存在です。通常の線路や道路の立体交差は、最大4マスをまたぐことができます。斜めに交差する場合、線路は2マス、道路は4マス必要ですが、新幹線は通常の線路とは異なり2マスではまたげず、3マス開いていると建設がストップしてしまいます。
上田駅付近は、しなの鉄道が千曲川側、北陸新幹線が山側の関係で並走していますが、信濃国分寺駅方面に進むとしなの鉄道の線路が山側に移り、新幹線と分かれていきます。ここを自然に再現するには、新幹線と線路を並行させたまま斜めに交差する方法を考えねばなりません。
そこで思い浮かんだのは、ある「裏技」です。再びゲームの仕様の話になりますが、線路を斜めに配置したとき、線路を挟んで4マスは線路以外を配置することができません(線路と線路が2マスで斜めに交差できるのはこの仕様によるものです)。

ところが線路がある時に限り、このマスに道路(踏切)を置けるようになります。その踏切から線路を撤去すると道路マスとなり、この道路を撤去すると配置不可能マスにオブジェクトを置けるようになるのです。
ただしこれだけでは斜めの線路と新幹線の交差はできません。交差部分は2マスなのですが、普通の線路や道路とは異なり、新幹線は橋脚の位置をずらすことが出来ないので、上下線とも連続した2マスを確保する必要があります。そこで完全に斜めとするのではなく、交差部分は直角とし、前後を斜めに逃すことで並行した線路の交差が可能になるのです。これでイメージ通りに作れそうです。

今回はここまでです。次回はマップづくりに着手し、線路やバスを一気に仕上げます。

A列車で行こう はじまる観光計画 Nintendo Switch 2 Edition
Nintendo Switch 2
掲載日:2025年12月2日
提供:A列車で行こうポータルサイト「A列車jp」(https://www.atrain.jp/)